とある娼婦と能力者の間で出来た子供。娼館の中で美しく着飾った女たちに囲まれ育つ。
化粧とか、香水の甘ったるいにおいは好きじゃなかったけど、娼婦たちは大好きだった。
―ほんとうにきれいで。まるであでやかな鳥のようだったから。
14の冬まで、『とりかご』の舞台で歌を歌って暮らしていた。
そして14の春。彼女の体内で異変が訪れる。
其れを聞いた『とりかご』の男が哂う。
―よかったなカナリア。これでおまえも立派な 『商品』 になれる。
其れを聞いて『とりかご』の女は嘆く。
―ああ、可愛そうな籠の鳥。あなたも憐れな 『娼婦』 になるなんて!
彼女が初めて、いつも娼婦たちが客と共に入っていく奥の部屋に案内されたのはそれから一ヵ月後。
背中の開いた黒のワンピース。胸の悪くなるような甘いにおい。絞られた桃色の照明。
嫌な予感がふつふつと沸いてくる。
扉が開かれ、そして。
いつも彼女のステージを最前列で見ていた肥満体の老人が、喜色を浮かべて彼女に伸し掛かってきた。
―此処で何が成されていたのか、また今同じことをされようとしているのだと悟った瞬間。
彼女は老人の顔を蹴飛ばして、部屋の外へと逃げ出した。
客を蹴飛ばして逃げる娼婦など、前代未聞の出来事だっただろう。
必死に抵抗をすれども虚しく、彼女は男たちに捕まる。
そして、罰を受けた。
真っ赤に燃える焼け火箸が肩甲骨の上に当てられ、撫ぜる。
絶叫。焼け付く痛みだけが脳裏を埋めて、そこで意識が途絶した。
彼女が次に起きたとき、彼女がいたのは暗い籠の中。
することも無いので、かごのなかの鳥は歌った。
か細く、今にも消え入りそうな声でたくさんの歌を。
星の歌、月の唄。愛の詩、恋の謡。
なにかを待つようにずっとずっと。
やがて銀の鳥籠の鍵が開けられ、手が差し伸ばされた。
―ああ、愛しい 『鳥籠姫』 ! さあお外へ参りましょう。
籠の中のカナリアは、その手を惑うことなく取った。
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